むかし、 山 の なか で すみ を やいて いる、 まずしい わかもの が いました。 ちらちら ゆき の ふる、 さむい 冬 の 日 の こと です。 わかもの は、 ながい あいだ ためた お金 で、 ふとん を かい に まち へ でかけて いきました。
はずんだ こころ で 山 を おりて いく と、 かたわら の しげみ の なか で、 ごそごそ 音 が しました。 「はて、 きつね でも いる の かな?」 そっと ようす を うかがう と、 白 い 大 きな はね が みえました。 「つる だ。 つる が わな に かかって いる。 まて、 まて。 いま たすけて やる ぞ。」 わかもの は かわいそう に おもって、 あし に かかった わな を はすそう と しました。
そこ へ、 りょうし が あらわれました。 「なに を する。 おまえ は わし の えもの を よこどり しよう と いう の か。」 りょうし は、 わかもの を にらみました。 「かわいそうだ から、 にがして やって くれ。 いや なら、 ここ に お金 が ある。 この つる を うって くれぬ か。」 わかもの は、 ふとん を かう お金 を りょうし に わたしました。
「さあ、 もう こんな ところ へ くる ん じゃ ない ぞ。」 わかもの は そう いって、 つる を 空 へ にがして やりました。 「くうーー」 つる は うれし そうに ひとこえ なく と、 わかもの の あたま の うえ を 大きく まわって、 空 へ きえて いきました。 つる を みおくる と、 もう まち へ いく ようじ は ありません。 わかもの は きた みち を、 ゆっくり 山 へ もどって いきました。
つぎ の 日 の あさ の こと です。 みた こと も ない ほど うつくしい むすめ が、 やって きました。 そして、 「わたし を よめさん に して ください。」 と、 いう の です。 「とんでも ねえ。 わし は、 この とおり びんぼうな すみやき じゃ。 よめさん を もらって も、 くわせる こと も できない。」 わかもの は ことわりました が、 むすめ は、 「あなた の よめさん に して くれたら、 いくら まずしくて も かまいません。」 そういって、 わかもの と くらす こと に なりました。
わかもの の くらし は、 すっかり かわりました。 あさ め を さますと、いろり に は もう あたたかい 火 が もえて いました。 かお を あらって いる と、「ごはん が できました よ。」 と、 きれいな よめさん が よびます。
よめさん は 山 の なか に ある、 おいしい たべもの を よく しって いて、 じょうずに つくります。 いえ の なか も きれいに かたづいて、 しごと も どんどん はかどって いきます。 「わし の ところ へ よめ が くる なんて、 ゆめ みたいな はなし だ。」 わかもの は、 しあわせ そう でした。
ある 日 の こと です。 「うら の こや を かたづけて いましたら、 ほこり を かぶった はたおり が ありました。 わたし に はた を おらせて ください。 そのかわり、 はた を おって いる あいだ は、 けっして なか を のぞかないで ください。」 よめさん は そう いって、 こや へ はいる と、 と を しめました。
ぎいっ ぱったん ぎいっ ぱったん よる も ひる も、 こや の なか から ぬの を おる 音 が、 きこえて いました。
「おなか、 すかん の か。 すこし やすんで めし を くったら どう じゃ。」 わかもの は しんぱい を して、 そと から こえ を かけました。 けれども、 へんじ は ありません。 わかもの は、 ますます しんぱい に なりました。 なんど も こや の と を あけよう と しました が、 じっと がまん を して いました。 四 日 め に なって、 やっと こや の なか から よめさん が でて きました。
よめさん は すっかり やせて、 ふらふら して いました。 やせおとろえて、 くび ばかり ながく かんじられました。 「こや の なか に、 おりあげた ぬの が あります。 それ を まち へ うり に いって ください。 きっと たかい ね で かって くれます。」 「そんな こと は、 どう でも よい。 わし は おまえ の からだ が しんぱい じゃ。」 わかもの が いう と、 よめさん は にっこり ほほえみました。 「わたし の こと は、 しんぱい なさらずに。 さあ、 はやく わたし の いう こと を きいて ください。」
わかもの は ぬの を もって、 まち へ でかけて いきました。 おみせ の しゅじん は、 その ぬの を みて、 びっくりしました。 「ほほう、 これは すばらしい。 いま まで みた こと も ない ぬの じゃ。 八(はち)十(じゅう)りょう、 いや 百(ひゃく)りょう だしましょう。 こんど もって こられたら、 二(に)百りょう で かいあげましょう。」 め の まえ に、 百りょう の こばん を つまれて、 わかもの は からだ が ふるえる ほど、 おどろいて いました。
「わし に も、 いよいよ うん と いう もの が むいて きた ん だ。 いえ に かえったら、 すぐ また ぬの を おらせよう。」 せなか の つつみ に は、 ずっしり と おもい 百りょう の お金 が あります。 いま まで みた こと も ない お金 です。 わかもの の こころ は すっかり かわって しまいました。 山 の なか の いえ へ もどる と、 わかもの は め を かがやかせ ながら、 よめさん に はなし を しました。
「もう いちど だけ じゃ。 そしたら ふたり で まち へ でて、 大きな やしき を たてて、 いつまでも おもしろ おかしく くらす の じゃ。」 「わたし は、 あなた と ふたり で、 ずっと この まま の くらし が したい の です。 まち へ など いきたく は ありません。」 よめさん は しずかに いいました。 けれども わかもの は ききません。
「それほど あなた が いう の でしたら、 あと いちど だけ おりましょう。 こんど も ぬの が おりあがる まで、 けっして のぞかないで ください。」 よめさん は そう いって、 また こや へ はいって いきました。
ぎーい ぱったん ぎぎーい ぱったん こや の なか から、 はた を おる 音 が きこえて きます。 まえ より よわよわしい 音 でした が、 わかもの に は わかりません。 わかもの は いろり の まえ に ねころんで、 おさけ を のみ ながら まって います。
ぎーい ぱったん ぎぎーい ぱったん ところが、 こんど は 四日め の ゆうがた に なって も、 まだ はた の 音 が して いました。 「なに を ぐずぐず して いる ん だろう。」 わかもの は たちあがる と、 こっそり こや の と を あけて、 なか を のぞきこみました。
「ややっ。 これ は、 なんとーー」 わかもの は おどろいて、 たちすくみました。 なんと、 こや の なか で いっしん に はた を おっている の は、 一わ の やせた つる でした。 つる は くちばし で 一ぽん 一ぽん からだ から はね を ぬいて、 ぬの を おって いた の です。 「いま やっと、 おりあがりました。 けれども、 こんな すがた を みられて は、 もう ここ に いられません。 わたし は、 あなた に たすけて いただいた つる です。 さあ、 この ぬの を まち へ もって いって、 しあわせ に くらして ください。 さようなら。」
つる は そう いう と、 はね の ぬけた つばさ を いたいたしそう に ひろげ、 「くるるーー」 ひと こえ ないて、 空 へ とびたって いきました。 「お金 など いらぬ。 わし が わるかった。 いま まで どおり、 ふたり で この 山 の なか で くらそう。 だから、 だから、 もどって きて おくれーー」 わかもの は なきながら、 いつまでも 空 に むかって さけび つづけて いました。